2.導かれる音

 
清らかで、だけどもざらざらと雑音が混じったような、心地よさと不快さを混ぜ合わせた。そんなな声色が聴こえてきた。それは歌を奏でていて、よく耳を澄ませば微かに言葉ひとつひとつが聴こえる程度の極僅かな音量。何が伝えたいのか、尋ねようにも声が出ない。もっと近づけばいいのではないか、身体を動かそうにも身体が動かない。助けてください、と頭の中で悲鳴を上げれば、『ならば助けてやろう』と先程とは違う明瞭な声が自分の耳に届くのだった。

その瞬間、小さい罅割れの音がして、そして大きな破裂音が聞こえた気がした。

パラパラとガラスが落ちる音を耳にしながら、目を開ければそこは見知らぬ世界。様々な種類の計器がモーター音をフル稼働させる音が、とても耳障りだ。プラスして、けたたましい警告音がしきりに鳴り響いている。とんだ場所にじぶんはいるものだ。

何故このような場にいるのか、全く理解が及ばない。
直前の記憶は異色を纏った毒花「フロワロ」に囲まれた光景だった。自宅付近にて、近所の子どもが迷子になるという事件が起き、その探索を行っていた時のこと。その最中に起きた突然の地割れに巻き込まれ、そして私は…。浮遊感とともに奈落の底に落ちていく。
その時に誰かが守るように抱きしめてくれた気がするのだが。はて、いろんな事がうろ覚えだ

重い身体を持ち上げて、ようやく一歩足を踏み出す。そうすれば、またあの声が耳に届いてきた。「こちらに来なさい」。行くあてもわからない私はその声に導かれて、足を動かし始める。

自分が一体どこに導かれるかなんて、そのときの私がわかるわけがなかった。