燭台切

「ほら、もう泣き止んで。怖いことはないから、全部僕に任せてくれればいいんだから、ね?」「……くっ…うぅ…」

頬を撫でるその手はとても優しく、そして温かい。いつもしている手袋は外しているようだ。拒絶するように顔を背けてしまえば、少し苛立ったように目を細めてくる。

「…まあ、いいんだけど。でも顔は此方に向いてもらうよ」「やめ、っん…!」

強制的に顔を正面に向けさせられ、そして来るのは口付け。ぬるぬるとした舌が口内に侵入してきて、それに加えて彼の手は服越しにだが、私の胸を下から上へと揉みしだいていく。与えられる刺激に耐えられず力が抜けたことが分かると、押さえつけられていた手は放され、それから両手での行為に発展するのだった。足が震えるものだから、つい、彼の腕に掴んでしまう。そうすれば、嬉しそうな顔をするのだ。

「んっ…服越しにでも分かるね、柔らかい」「っや…わらかくなんか」「ある、直接触ってみたらわかるはずだよ」

服をたくし上げられ、そして燭台切に捕えられていた腕を取られ、自身の胸へと誘導される。彼の手のひらが私の手の甲と重なりあい、その膨らみを直に触れさせられる。ゆっくりと円状に動かされれば、その光景に羞恥で悲鳴があがりそうになった。が、それもまた、口づけで塞がれてしまうのだ。

「中々この光景もいいね、恥ずかしそうにしてる顔も可愛い。だけど叫び声は上げちゃダメだよ?誰にも知られず、こういう場所でやってるってことがいいんだから」「…とんだ、変態…ですね。恐れ入りました、ここまでだとは」「甘く見ていた自分を恨めばいいよ。さ、続きを」「っ!?!!」

続きをと言って、胸の先を口に含まれる。幼子が乳を飲むように、ちゅうちゅうと吸い上げられれば、何とも言えない感覚が身体の奥底から湧き上がってきた。驚いて、頭を掴んで離そうとすれば、邪魔をするなと片腕を壁に縫い止められる。両腕だけでも大した力が入っていたわけでもないのに、片腕でどうにか出来るわけがない。胸の先を舌がくりくりと舐めあげていく感触に、唇を噛んでいると、そちらに気を取られていたせいか、下着越しに彼の手が割れ目に触れた瞬間、ビクリと緊張感で身体を固くしてしまう。情けない声も口から漏れるのだった。

「ひっ…」「ちゃんと濡れてるね、大丈夫かな。でも初めてだからきちんと慣らしておくべきだよね」「なっまっ!!」「生はだめ?ごめん、今そういうの持ってなくて…」「ちがっちがう!!」「違うんだ。じゃあいいよね」

人の話を聞いてくれない燭台切は、無情にもその骨ばった指を下着の横から挿れては抜きを繰り返す。押し広げられていく…恐怖と痛みで震えていた身体が、次第に違う震えへと変わっていった。閉じた口から自然と漏れてしまう喘ぎに、テンションが上がってきたのか抜き差しは段々と早くなっていく。

「っ…う…んんぅ…」「いい感じかな?」

違うのだと首を振れば、そうかと今度は指を二本と増やしての指慣らしが始まる。更に強くなった刺激に我慢も限界に到達した。顔を両手で隠しながら、彼の指をぎゅうっと強く締め付けてしまえば、残念そうなため息が私の首筋に掛かりくすぐる。

「……顔隠しちゃうなんて。勿体無い」「はっ…あっ…はあ…ふっ…ぅ」「まあ、仕方がないか。恥ずかしかったんだもんね?でも次は僕にもその顔見せて欲しいな」「はっ…ぁ…い、や…」「ダメだって、最初に言ったよね?僕も我慢の限界なんだって、責任をきちんととって欲しいなあ、主?」「ごめ、ん…なさ…」「大丈夫大丈夫、痛いのは最初だけだから、ね?」

なんて優しい顔をするのだろうか、これから行う行為は残酷なものだというのに。絶頂後の身体は言うことがきかず、なされるがままに下着を剥ぎ取られ両足を広げられ、恥部を外部に晒される。自分のそこが濡れすぼってしまっていることを視認してしまうと、殊更に羞恥が掻き立てられた。歯噛みする私を見つめながら、彼はそのモノを取り出して、そこに宛てがう。小さく「挿れるよ」と呟くと、口づけと同時に一気に奥まで貫いた。

大きさとか、そういったことはよくはわからなかったが。それでも彼のは良い方なのだろう、初めての痛みと一気に押し広げられた苦しさは格段と酷かった。口づけでくぐもった声で呻きを上げる。それさえも飲み込むようにして、燭台切は喰むように飲み込むように口づけを続けた。
律動は最初こそはゆっくりと、次第に大きくなって、やがては水音が辺りに響くまでに激しいものへと変わっていく。

「っ…気持ち、いい?」「ふっ…うっ…んんっ…」「これでも?」「はっあぁっ!?」「気持ち、は…よさそうっだね、よかった。本当に…よかった、よ」

一際早くなる律動が、再びの絶頂を招く。両腕を彼の両手で拘束されて、なにも隠すことができない私は、全てを晒したまま、二度目を迎えるのであった―。

「あっはあっ…うぁ…やっ…いやぁ!!あっ!!」「うっ…く…」

彼もそれにつられて迎えた絶頂は、勿論私の中で迎えられ。ふわりと遠のく意識の中で視界にあった、抜かれた燭台切のそれには白い液体がまとわりついて。ああ、ああ…と混乱する思考のなかで唯一絶望感だけがやけに鮮明に私を支配していた。