、左文字兄弟

「貴女が…新しい主、ですか」「…は、はい」「ロックは…お好きですか」「ロッ、ロック?」

やたらデスメタルなメイクをしている人が本丸の前にいると思ったら、刀剣男子であった。かつての深緑の本丸を引き継がせてもらった当初のこと。江雪の陰で、男の子が此方を伺っている。彼が此方を覗く度に耳元のドクロがゆらゆらと揺れていた。

「…はじめまして、左文字さんたち。あの…突然の役者交代で申し訳ありませんが、私がその通り、新しい主となる人間です。宜しくお願い致します」 「はい、宜しくお願い致します。…ところで主」「はい?」「以前の主がどうなったか、ご存知でしょうか」

江雪がさり気無く聞いてきた、答えにくいことを。本業捨てて、ロックバンドを結成した後売れないバンドとして地方を駆け回っているなどと、口が裂けても言えなかった。貴方たちは実質的に捨てられたのだと、言えなかった。

「え、と……」「まったく、兄様。主、答えられないのなら、それはそれで良いのですよ。まあ、予想は出来ますけど。あまり真面目な方ではなかったので、僕たち兄弟以外の刀剣男子たちはいなかったですし…他の仲間たちがどうとかという心配も特にありませんしね。どうせその日稼ぎで生きているのでしょう」

よくご存知で。勝手知ったるなんとやらか。

「ああ、お小夜。新しい主に御挨拶をしなさい。前の主はだらしがありませんでしたが、僕たちは違いますからね。そう隠れてはいけませんよ」「…うん、わかった」

陰から小夜がでてきた。少し照れくさそうな顔をしている。子どもにやるそれと同じように目線を合わせれば、ジッとこちらを見つめかえしてきた。この光景は、確か三日月を瞳に宿した彼との出会い、そのときの情景と似通っている、そんな気がした。

「初めまして、貴方の新しい主です。小夜くんだよね、よろしくね」「…うん」

小夜がはにかむ、なんとも可愛らしいことだ。この子にも何か抱えているものがあるのだとしたら、少しでも多く取り除いてあげたい。未来や過去やら世界や時間やら、そんな途方もない話はやはりまだ分からなかったが、目の前の彼らを守るための方が、よっぽど頑張れる。そう思ったのだった。


悔いのないように、私はあの時感じた後悔を二度と感じないように。