、山伏

「…拙僧たちの問題であったのだ。気がついておりながら…機を待っていたのだ。奴をもとに戻す方法を。あればよいと、もしかしたら奇跡を起こせるのではないかと」

最後のひとりとなった山伏は、語るように告白する。

「奴が過去を変えたいという、そういった思想を持ち始めたことには気が付いていた、それは貴殿が来る前からのことだ。皆知っていた。だが、もしかしたら時間を掛ければ考えを改めてくれるやもしれぬし、そうでなくとも考え直す時間を作ってくれるやもしれぬと。甘かったな、やはり。黒く染め上げられた水は、何をしようと白くは戻らぬ」
「…何が違えば、こうならなかったんでしょう」「……なんなんだろうなあ、今となっては拙僧でもわからん。ただ、もっと傍に居てやればよかったと思わなくもない。傍に居て繋ぎとめてやればよかったのやもしれん。だが、分からないなあ」

「………」

今となっては何が良かったのかわからない。何が正しかったのかもわからない。こうなってしまった以上、最悪の結果にしか到れなかったのだから、最善の結果などは可能性にしか過ぎないのだ。
だから、今ここで悔やみ項垂れていても仕方がない。そう、私は、ただただ彼らが消えゆく現状を、見守ることしかできないのだ。唇を噛みしめたら鉄の味がした。

「間違えないでくれ、拙僧たちのように。悔いのないよう、な」「山伏さん…?」

顔を上げるとそこには誰もいなかった。さも、そこには最初から誰も居なかったかのように、ただ寂しく風が吹いては風鈴を揺らし続ける。誰もいない本丸のなか、風鈴の音だけがこの場においての唯一の音となる。彼らはもうここにはいないのだと、再び認識して悲しくなった。