、信濃、三日月

かつて、そこには沢山の声があったはずだ。だが今、そのかつての喧噪を垣間見ることは出来ない。それ程に静かで活気がない、生命を感じない。隣で同じようにそこを見つめていた上司を見上げた。

「これは、何が」「…解体が決まったんだ。当たり前だ、主のいない屋敷など既に用済みだ」「でも、他の子たちは」「……同じだ、刀解が決まっている」「…ッ!」

刀解という単語を、久方ぶりに耳にした。そして同時に衝撃が走る。深緑が居たあの時まで、その手の話がなかったからか余計にそう感じてしまうのだろう。何故、という問いかけは唇と喉が震えて出来ない。代わりに視線だけでそれを訴えた。

「致し方ないのだ。君の嫌疑は晴れても、彼らの疑いは晴れることはない。同じ霊力で今は動いていたのだ、結果がこれでは同様になる可能性はある」「で、でも、そんなの分からないじゃないですか。分からない、じゃないですか…っ」「……急がないと、別れの挨拶が出来ないぞ」

上司はそこで私に背を向けた。牢で告げたあの言葉は、そういうことだったのかと、震える足を必死に動かして本丸の中に急いだ。
皆、どこにいるのだろうか。そう思って、必死に障子を開け放ちながら奥へと進んでいく。活気がない、声が聞こえない。皆がどこにいるのかが分からない。
やっとの思いで彼らを見つけた頃には、半分以上が既にその姿を消していて。そして次はだれの番だと頭を項垂れて、ただただ畳の上で正しく座っていたのであった。

「あ、…うすき!」「信濃!!皆…!」

信濃が泣きそうな顔で駆け寄ってきていた。縋り付くように、抱きつく。よくよく見れば、彼らの大事な本体が見当たらなかった。取り上げられたのだろう、刀解するために。

「よかった…うすきが無事で。よかった……」「信濃……」「ああ、そうだな。何はともかく、お前が無事でよかったよ」「三日月さん……」

穏やかな笑みを浮かべて、そして彼はそっと目を閉じた。

「…最後にあえてよかったよ」「三日月さん…」

信濃が強く抱きつく。

「うすき、俺、今度はうすきの懐刀になりたい。深緑もいいんだけど、なんだか一番うすきがあったかいんだ。だから、約束を」「信濃、それは駄目だ」「…いいじゃん、このくらい」

一期の叱咤に、信濃がふくれっ面となる。約束は、一生消えない束縛。だからそれはしてはいけないことなのだ。
彼らに対して何もできない、し、何かを残してあげることもできない。彼らはそれを分かっているのか、そのあとは何もしゃべらずただジッと黙ってその時を待ち続けるのであった。