、三日月

はたして、私の本丸探検ツアーとやらは波乱のまま幕を閉じた。
まずは、初っ端から鶴丸のクラッカー攻撃を食らい、次は短刀たちによる激励。長谷部には主の後輩ならば俺の後輩的存在だろうみたいな、この本丸におけるピラミッド的位置関係を教え込まれ、ほか諸々…審神者なるものとはなんなのか、や自分たちはこういったものだという講義やら本丸の使用方法やらエトセトラエトセトラ…。長い時間であった。

疲れた、と宛がわれた部屋で倒れこむ。布団も敷いていないから、畳の固さが背中に痛い。障子ももはや開け放しであったから、何者でも簡単に入り込めるのであった。そろりと足音がして、その人物は隣に座った。

「疲れたか」「……まあ」「疲れることは頑張っている証拠だな」「…はあ」「布団を敷いてやろう、そのままでは身体によくない」

三日月は襖から布団を取り出し、慣れた手つきで布団を敷いていく。

「綺麗なベッドメイキングなことで」「…意外か?俺たちの主はそういった手前のことには厳しくてな、自分でやれることは自分でやれという決まりだ」「…ふーん」

母親的な、そういった指導でも基本としているのだろうか。では、あのときみた山伏はお父さん的な感じか。沢山の子どもたちに囲まれていることだ。 布団を整えながら、穏やかに三日月は私に話しかける。

「ふむ…こうして隣にいるだけだというのに、なんだろうな、うすきの傍は実に心地が良いな。陽だまりのような温かな気を持っている」「でも私はそこまでの力は持っていないですよ」「そうだな、確かに力はないな」「……」

そうはっきりと言われると流石に落ち込む。敷き終えた布団に潜り込み、掛布団を頭が隠れるくらいの位置まで持って行った。くすくすと笑い、三日月の手が布団をぽんぽんと子をあやすかのようにそれを叩く。

「だが、力はないがその身に宿した気は心地が良い。強く、心惹かれるものがあるな」「……?」「感覚的なものだ、特に俺たちのような強い自我を持つものたちにとってはな。なんとなく、ほっとする。それが気の色にも反映されているのやもしれんぞ」「…うすき?」「ああ」

ぽかぽかとした陽だまりのようなイメージ、とはそういうことか。ぽかぽかしているから、つい近寄ってしまう?ほっと身を寄せてしまいたくなる??例えて言うならば、干してお日様の香りを匂わせる布団のようなものなのだろうか。イマイチ自分にはよくわからなかった。

「いや、深く考えなくてもいい、が忘れないでほしい。強く濃い香りを放つ大輪の花とは違い、存在そのものは目立ちはしない。が、それでも道行く人をふ、と気が付かせて振り向かせてしまうような、そんな小さな花のような存在であるのだと。覚えておいてくれ」「……?」

言っていることが細かすぎて、意味を理解しきれない。し、やはりわからない。だがそれさえも許すように、ゆったりとした動作で三日月は布団を叩き続ける。やがて訪れた微睡に身をゆだねると、彼はそっとその場を去っていくのであった。