、深緑、三日月

適正値が低いということで、見習いから始まった私は所謂修行をさせられることとなった。しかもその修行先が先日の深緑という先輩の元だというのだから、運命は皮肉なものである。
初日、彼女はあの時と変わらぬ無表情で私を迎えた。古き良き日本家屋を模した本丸の前で、これまたあの時と寸分違わぬ深いお辞儀でのお出迎えである。地が真面目なのだろうか、そういう育ち方をしたのだろうか。これから毎日、丁寧なしぐさを私に見せてくれるのだろうかと思うとドキドキしてしまう。丁寧なのは、できなくはないが大得意でもなかった。

「いらっしゃい」「…宜しくお願い致します」「はい、宜しく。三日月殿、あとのことは」
「あい、承知した」

隣にいたのは山伏ではなかった。天下五剣のひとつである三日月宗近である。彼は子どもにやるのと同じように目線を合わせると、此方の顔を覗き込む。彼の瞳の奥がよく見えた。

「話には聞いている、うすきと申したな。俺の名前は三日月宗近だ、よろしく頼む」「…はい」

この本丸にはレアどころが揃っているとはきいていたが、まさか初っ端からラスボス的存在に出会えるとは思わなかった。虚を突かれたといったところか、動揺している私を傍から見ていた深緑は無表情ながらに楽しんでいるようにも見えた。これは厄介な先輩のところに追いやられたものだ。

深緑と同じように、視線を真っ直ぐ合わせてくる三日月から目線をそらした。刀剣男子たちはその本丸の主の影響を受けやすい。そういった癖も、もしかしたら影響してしまうのかもしれない。

「では、参ろうか。本丸探検つあーといったやつだ、どっきりもあるぞ?」
「…ネタバレですよ、それ」「はっはっは、よきかなよきかな」

三日月が大らかに笑う、私はそれになんと反応したらいいのかが分からない。
だがそんなことは関係がないと、自然な動作で三日月は私の手を握り、本丸内へと導いていく。横目で深緑を見れば、やはり彼女は無表情のまま此方にゆっくりと手を振っていた。