歌仙、長谷部


「姫金魚草の花言葉を知っているかい」「…花言葉?」「ああ、そうだ」

手伝いをお願いされて、そこにいけば突拍子もないことを言う。大した話でもないと無視を決め込むことにした。だが、歌仙はそんなことはお構いなしに穏やかな顔で話を続けるのだ。

「幾つかあるが…私の恋を知ってください、乱れる乙女心というのがひとつにある。君は、今、そんな顔をしているよ」「っ…何を戯言を」「そんなに憂いた顔をしているのにか?自分に素直にみえて実のところは鈍いということか。まるで初めて恋をした姫君のような、そんな愁いを帯びた表情をしている」「……だから」「まあ、いいさ。僕が言いたいことはそれだけだ」

それだけを言うと、歌仙は包丁を握り直して大根の飾り切りを始める。本当に言いたいことだけを言い切ったようだ。あとはもう、此方のことなど気にも留めていない。俺がどんな表情をしているのかなど、興味がないようだった。