長谷部、燭台切

獅子王が部屋から居なくなった。探してみれば、道場で手合わせをしている。その姿に驚きが隠せない、彼が武器を手に手合わせをしているだなんて。

「ううぅ…獅子王も打ってこいよー」「…いや、俺はいい」

それにしても、と思う。やはり彼は強かった。
浦島は確かに練度こそ低いが、その能力自体は劣っていない。が、獅子王のそれは軽く凌駕していて、浦島の連撃を全て軽くいなし続けている。攻撃を仕掛けないのは例のトラウマのせいだろうか、だが、それだとしても能力が秀でているのはのは誰の目にも明らかだった。

そっとその場を辞する。彼らの手合わせは暫く続くであろう。その間にやっておきたいことがあった。

「あ、主。如何いたしましたか」「…長谷部、さんと眼帯さん。獅子王の部屋を少し掃除しようかと」「何故そこで僕の名前をふせたのかな」
「!そんなことは我々のような者に任せておけばよいのです!…おい、行くぞ燭台切」「…え、僕??」

長谷部がやる気をみせてくれるのはありがたくもあるが、此処は自分でやっておきたかった。キラキラとした視線をくれる長谷部の横を通り過ぎて、獅子王の部屋へと向かう。

「いいですよ、そのくらい私がやりますから。それに…少し探したいものがあるんです」
「……?」

二人が不思議そうな顔をしながら、私の後についてきた。廊下を渡ってたどり着いた獅子王の部屋の障子は締まりきっていて、澱んだ空気を逃がすように、大きく入口を開け放つ。埃が外へ逃げていくのが陽の光にあたってよく見えた。

「探し物…とは、一体…」「あった」

視線をさ迷わせ続ければ、それは獅子王がいつも居た場所に落ちていた。いつも大事そうに眺めていた、それ。
部屋の隅の一角に、それは落ちていた。それとは小さな銀色のアミュレット。中を開ければ、そこにいたのは数人の刀剣男子とひとりの青年。彼らは楽しげに笑い合っていた。

「写し絵、ですか?」「写真っていうんだよ」「煩い、お前には聞いていない」
「……獅子王はね、戦いの最中に仲間を過って傷つけて、壊してしまったの」

カチリ、と蓋を閉じて元の場所に置く。蓋を閉じても目に焼き付いたそれは、かつて彼らが共に笑い合っていたときのその声が聞こえてきそうになっていて、錯覚だ、と頭を振る。情報を纏めるように、再確認するように獅子王について話を続けた。

「本当にただの事故だったらしいのだけれど、それでもその時の主は半狂乱になったらしくてね…特にその人が可愛がっていた子だったから。…沢山の言葉を獅子王に叩きつけたらしい」
「へえ…」「…戦いの最中で散ることは、当たり前のことですよ」

長谷部が至極当然のように言う。それに関しては燭台切も同意見のようで、すっと目を伏せた。

「わかっていても諦めきれなかったんだろうね。…それからというもの、獅子王は刃を手にすること自体を恐れてしまって。まともに戦うことも、何をすることもできなくなって…そこも腹が立ったんだろうね。更に主は彼を追い込んでいったらしい」
「その結果があれ、ということですか」「うん」「難儀なことだね」

だからこそ彼が今、浦島と手合わせをしていることに驚かされたのだ。何を思ってなのか、何かを思い出したからなのか。このまま何事もなく時が過ぎればいい、彼がかつての明るさを取り戻すまでは。今はそう願うしかない。