蜂須賀、長曽根

手入れが済んで、安心したのか浦島は眠ってしまった。彼に布団をかけて、そっと部屋を後にする。だがそこにいたのは、金色の鎧を纏った男がいた。彼はしかめっ面で此方を見下ろす。だが、負けじと合わさった眼を逸らさずにいれば、蜂須賀は少しばかり怯んだように一瞬だけ眼を逸らした。悔しそうに、彼は唇を噛み締める。

「こんな小娘に負けるだなんて…」「…私は違いますよ」「わかっている、そんなことは。だが、信用に値する存在ではまだない」「まだ、ということは。もしかしたら、があるのかもしれないですね」「…いやに前向きだな。好きに解釈しろ」「では、そのように」

頭を下げれば、息を飲む音が聞こえた。気が落ち着かないのか、苛立たしいのか。足でトントンと廊下を叩く。そして、背を向けて去っていってしまった。

「これはお嬢ちゃんの勝利だな」「長曽根さん」「浦島はどうだ」「全快です」「そうか」

優しそうな顔で手入れ部屋を覗く長曽根に、つい頬が緩んでしまう。兄弟の絆が、そこには垣間見えた。

「蜂須賀も、そのうちお嬢ちゃんのことを認められるようになる。今は素直になれないだけだ」「そうすかね、ならいいな」「大丈夫だ。俺を信じろ」「…はい」

そういえば、かくいう長曽根は私という存在を認めてくれているのだろうか。ふと疑問に思う。割と最初の方からフレンドリーではあった気もするが。そう尋ねると、長曽根は相変わらずの笑い方をする。

「俺は特に何も思ってはいなかったさ。様子を見ていた、というところか。最初から信用していたわけではないが、お嬢ちゃんの今までの様子を見て、毛嫌いするほどではないなと、そう思ったところだ。むしろ、小夜左文字のように誰かが傍にいてやらねば危なっかしいと、そう思わせられたのが一番といったところか。浦島と同じで、放っておいたらお嬢ちゃんも何が起きるかわからん」

長曽根はそして頭を鷲掴むようにして、「すまないな」と、その大きな手のひらで私の頭を撫でた。