虎鉄兄弟

おそるおそる声が掛かったのは、ほんの数分後。申し訳なさそうに眉をハの字にさせながら、浦島は部屋の障子をそろりとあける。彼は少しだけ、隙間から顔をのぞかせた。

「あの、お姉さん…腕の傷は」「心配ならきちんと顔を出せ。それ位礼儀だろう」「あ、え…長曽根兄ちゃん?」

自分以外の存在が、そこにいるとは思いもしなかったのだろう。浦島が素っ頓狂な声を出すと、長曽根は喉を鳴らして笑う。親しい者が居たからだろう、安心したのか彼は部屋へと足を踏み入れる。私の正面へと座り、傷がある場所へ手を伸ばそうとする。その手にはまだ痛々しい傷跡が残っていた。

「浦島君、手の傷治ってないね。当たり前か、まだ手入れをしていないものね」「そんなことより、お姉さんの傷の方が問題だよ…」 「確かに。嫁入り前のお嬢ちゃんに、残るような傷ができるのは問題だな。まっ、お前がもらってやればいいだけの話だが」「ッうっえええ?!!」

真っ赤な顔をして、浦島が慌てている。可愛らしいと思いながら、私は彼の手を取った。

「傷が残るのは困るけれど、けれども君が傷ついたままなのも私は困るな」「…なん、で?仕事だから??」「まあ、それは大いにあるけど…だって、傷は痛いじゃない?痛くない??」「…まあ、痛い、けど」 「私、痛いのは嫌いなんだ。だから痛い思いをしている子を放っておいただなんて…私の良心がとても痛むのですね。思い悩んで胃に穴が空きそう、だからだよ。ね?困るでしょ私が」 「なんだそれは。変な理屈だな、そりゃ」「ふふ、まあね」「……。」 「だから治させてもらうよ、その傷」

手を引っ張って、先程と同じように静かに立ち上がらせれば、呆けた顔をしつつもきちんと立ち上がってくれる。気をつけろよ、という長曽根の言葉に心得たと答え、浦島を手入れ部屋へと連れて行くのであった。 ?