虎鉄兄弟

手入れ部屋まではあと少し。ついこの間、長曽根と眺めた桜の横を通り過ぎる。だが、木の陰から現れたその者により、行く手を遮られるのであった。

「…何をしているんだ、貴様」

怒気のはらんだ声音が私に向けられる、そして同時に放たれる鋭い一閃。それも私に向かって放たれたのであった。

「っぐ…」「にっ兄ちゃん!!!あ、ああ…お姉さん、傷がっ」「ちっ…意外と素早いな」

間一髪のところで致命傷は避けたものの、怪我は避けられず。左腕に浅い裂傷ができてしまった。庇うようにして、浦島が私の前に立つ。それを不満げに蜂須賀は睨んだ。

「なぜだ、浦島。また人に嫌がらせをされて…血も流して。それでも“人”を主と慕うのか?お前を泣かせるような存在を、それでも守るべき存在だと答えるのか」 「なっ、泣いてたのは違うよ!それに血も…ッ意味が違うんだよ、兄ちゃん、だから!!!」「どけ、浦島!!」

立ち塞がっていた浦島を掴み、軽く飛ばす。敵である私を守る存在がいなくなった瞬間、蜂須賀は己を振り上げた。流石に次に訪れるやもしれぬその瞬間が恐ろしくなって、私は強く目を閉じる。離れた場所で、浦島の兄を呼ぶ声が聞こえた。

「やめておけ、蜂須賀」

キィン、という刃が交差する音がして、振り下ろされたその後がくることはなかった。恐る恐る目を開けると、屈強な背中が私を庇い、そして彼の刃を己の刃で制止ていた。

「やめておけ、浦島も見ているぞ」「くっ…贋作が、邪魔立てを」「もう少し話を聞いてやれ、浦島は違うと言っていた。お嬢さんの盾となってまで否定した言葉だ、嘘なわけがないだろう」「っ…だが」
「あの時の“人“と、このお嬢さんが同じことをするとは限らんだろう。落ち着け、刃を仕舞え」「………チッ」

憎々しい表情で刃を仕舞い、背中を見せる蜂須賀。長曽祢は目で合図すると、それを浦島に追わせる。そして私に向かい合い、傷口を手ぬぐいで覆う。

「傷は浅いな、綺麗な避け方をしていたな。関心した」「…ここに来る前に少しだけ、鍛えられていたもので」「フッ、いい鍛え方をされたのだな」

じわり、と滲んで白い手ぬぐいを汚し始めた血に、彼は申し訳なさそうに顔をしかめながら、手入れの前に先に手当をすると言って。私は先日の夜のように彼の肩に抱え上げられながら、一旦自分の部屋へと戻るのであった。