長谷部

気が付けば、どこかの部屋に私は寝転んでいた。全身の気だるさと痛みが身体を動かすのを億劫にさせる。

「目が覚めましたか、主」

息を飲むほどの感情のない声に、身体を震わせる。逃げようと構えれば、押さえつけるように彼が覆いかぶさってきた。頭のすぐそばに手をついて、無表情で此方を見下ろす長谷部が恐ろしい。震える声で口を開く。

「あの…どうして…」
「どうして、とは?こんなところに痕をつけておいて、どうしてとは酷いですね」

胸元をさらけさして、忌々しそうにその痕を指でなぞる。

「彼にはこのような命を下して、俺にはダメなのですか?何が違うのですか?」
「ち、違うんです。これは私が望んで」「やったのでしょう」「違います!」

言葉のやり取りは意味をなさない、何を言っても彼の耳には届かないようだ。違うのだと、胸を手で押し返せばその手を両手で包み込む。そして懇願するのだ。

「主命をください」「嫌です」「主命を…」「ならばどきなさい!!」
「……」

押し黙る長谷部。だがその場からどく気など、更々ないようで、口をへの字に曲げてとんでもないことを口にする。

「そういえば、最近、月のものが辛いと薬を飲んでおられましたね」
「は、はあ?!なんでそんなこと…」
「主の苦悩を取り除くのも、家臣の役目だと…。そうは思いませんか?」

何を言っているんだ、こじつけにも程がある。そんな悲鳴は口に覆われてしまった手によって遮られるのだった