小狐丸、三日月

とあるひと部屋を開けてみた、陽射しの眩しい昼下がり。そこにはいままで見かけることのなかったひと振りが、目を閉じて眠っていた。明るい一筋の陽光が、彼の綺麗な横顔を照らしている。そっと、部屋に踏み入れば、部屋の隅から射抜くような視線が私を貫いた。

「近づくな」
「っ…」
「近づけば、斬る」

声のした方へと目をやれば、赤い瞳を怪しく光らせながら、腕を組み正座をしている者がひとり。固まる自分の元に、その白く長い髪を揺らせながら近づいた小狐丸は、隣に立つと加減など全くせず、力強く片手で肩を掴む。ギリギリと骨を軋ませながら、見下ろす彼の瞳の強さに冷や汗が垂れて。恐い、と本能が身をより固くさせた。

「無抵抗な相手にも容赦がないとは…人間とはおぞましいものだな」
「…ちっ、ちが…誤解して…っ」
「どうだか。虫も殺せぬような、純な顔をして…真の姿は所詮は獣。人とはそういうものであろう」

軽い腕の振りで、私は部屋の外へと投げ飛ばされ、その勢いのまま梁に全身をぶつけてしまう。衝撃は強く、カハッと息が吐き出てしまう。小狐丸は鼻で笑うと、ピシャリ、と障子を閉めきって殊更に私への拒絶の意を示すのだ。
その様子を部屋の外で見守っていた小夜が、心配そうにコチラへと駆け寄ってくる。

「大丈夫?」
「うん、っ…ああ、でも少し痛いかな」
「少しじゃないでしょ」

涙がポロリと零れた私を心配して、小夜がぶつけた背中をさする。ありがとう、と呟けば照れたように彼は小さく微笑んだ。だが、障子越しから此方に向かって放たれる殺気に、小夜は笑みを消してすぐに身を固くする。

「もう、行こう」
「っ…うん」

今だに放たれる殺気を遠くに感じながら、ただその場を去る以外にわたしたちに選択肢はなかったのだった。