憧れだけでは許さない!
「はあ…兄さん。今日も兄さんは素敵です…はあ…」物陰からニヤニヤと笑いながら、ジュリウスを眺める人物が一人いた。彼女は思う、ブラッドの隊長と楽しげに談話するジュリウスのその姿は、日常の一コマだというのに華やかで光輝いてさえみえる。溜息が付きたくなる程のその美しさに、実際に溜息をつくは、頬を紅潮させてまるで酔っ払いのようにもみえた。
対照的だ、とさえ思う。優雅さを兼ね備えたジュリウスと、優雅さの欠片も失われた。同じ上級階級の出であるはずだというのに、こうまで違うとは。深く溜め息をついても、それが彼女に届くわけがない。テルオミは、倦怠感と戦いながら自分が常々感じていた義務感を通すことを決意する。
「さん」
「はあ…兄さん。ジュリウス兄さんが本当のお兄さんだったらどんなによかったと何度考えたことか」
「さん」
「あ、でも繋がっていたらそれはそれで嫌なのかな…ああ運命ってやつは…いっそ法改正をすれば。いやでもそれはそれで禁断っぽくて」
「さん!!!」
「はいいいいいいいいい」
ジュリウスについての考察は、聞き飽きた。というか聞きたくない。少し睨むように彼女を見下ろせば、背の低い彼女は青ざめながら自分を見上げる。
「あの、何か…用ですか?」
「重度のブラコンだな、と関心しながらも兄が居る身として寒気を感じていたところです。ゴッドイーターであるなら、もう少し周りを気にしたらどうです?だからいつまでたっても貴女はダメダメなんですよ」
「ぐっ…そこまで言わなくても」
「まだその程度のことしか言っていないので、よろしければもっと罵って差し上げましょうか?…そういうの好きそうですし、貴方って人は」
「そっそういう誤解を招く言い方はやめてくれますか?!私はドMな変態じゃありません!!」
まあ、変態ではあるよな。という言葉はとりあえず飲み込む。これ以上からかい続けていると、本題からまるっきり外れてしまいそうだった。テルオミは脇に挟んでいたクリップボードをに差し出すと、それを読めと視線で訴える。
訝しげなだが、素直に内容を確かめると―
「これは…私の戦闘データ、ですか?いつのまに…ってかこれ、ここ最近の任務の記録じゃないですか」
「ええ、そうです。貴方の戦闘記録です、ここ一ヶ月のもの全て…神機との適合率からブラッドアーツの換気率まで…ほぼ全てのデータがここに収束されています。そして……私が言いたいことの全てがここに載っているんですよ」
わかります?
そう言っても彼女は首を傾げるだけ。当たり前だ、この人にわかるわけがない。ジュリウスに盲目的なに、自分の伝えたいことが一ミリも伝わるわけがなかった。頭が痛い、そして腹立たしい。盛大にため息をつきたい思いを殺して、彼女に視線を合わせる。更におびえた視線をコチラによこしているから更に腹立たしく思えた。
「ここ最近、貴方のあまりよろしくない戦闘状況が更に悪化しているのはご存じですよね?わからないだなんて…そこまで馬鹿ではないことを信じています」
「っ…わ、わかってますよ。そのぐらい……でもそれはちょっとだけ、本当にちょっとだけスランプ入ってるだけで、もう少し時間が経てば私だって!!」
「貴方のちょっとは大分長いですね、ブラッドに入ってからもう何ヶ月経っていると思っているんです??それとも日付感覚が正常に機能していないとか。…あのですね、貴方のその不調はブラッドに入ってからこの数ヶ月、殆ど好調になった記録がありせん。ああ、ごまかさなくても知っていますよ。全て記録に残っていますから…フランさんが真面目な方で本当によかったです」
「…テルオミさん!」
「なんです?私は怒っているのですよ、神機に大して愛情の少ない貴方に………使いにくい神機を無理やりに使い続けている貴方に、私は盛大な苛立ちを感じているんです!!」
強く足を踏み鳴らせば、はビクリと身体を震わせた。それは自分を怒らせたという恐怖心か。それとも、自分が使っている神機を、本当のところは使いにくいと感じているとバレていたということに関しての焦りなのか。
そのどちらでもいい、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも、自分にとって重要なことは彼女が神機に大して不誠実であること。それだけだ。
「ジュリウスさんを慕っている貴方の気持ちも分かりますが、それだけで神機を選ぶのは間違っています。さんの天性の戦闘能力で現段階では問題なく戦況をカバーできていました。が、とうとうそれも限界に到達してしまった。アラガミ勢力は衰えることを知らず、その真逆で新種も増え、勢いが増すばかり。私が言いたいことはわかりますね?いや、わからないとは言わせませんよ。さん」
「わ、私は…」
俯いて、身体を震わせているのはきっと悲しいからだろう。少しだけ気持ちが引き気味にならないわけはない、がここで自分が引いてはいけない。泣かせてでも、彼女に伝えねばならいことがあった。
「まだ言い訳をするのですか?それとも死にたいんですか??貴方の憧れで、死人を出したいんですか??そんなことは許しませんよ、俺が、許しません。いいですか、ブラッドの隊長さんにはもう伝えてあります。貴方が合う形の神機が見つかるまで、彼女は出撃させないで欲しいと。緊急時にはそれは難しいが、平時であれば構わないと許可が下りました。これから暫く、貴方には私の見繕った神機を使った特訓をしてもらえます…直ぐにでも戦場に復帰したい、慕っている兄の隣で戦いたいと思うのであれば素直に従うことですね」
それじゃあ、ともう一枚の紙を彼女が持っているクリップボードに挟んでその場を去る。そこには俺が全て組んだ今後のスケジュールがみっちり書き込まれていた。これも全て彼女に……
神機を不誠実に扱うに、神機の素晴らしさを教え込むためのものなのだ!!